末期がんの緩和ケア ご家族のための「在宅緩和ケア」「自宅での医療」の知識【神奈川県川崎市幸区の在宅緩和ケアクリニック】

前立腺がん

前立腺がんの特徴

前立腺がんにかかる割合は60代後半で第1位

前立腺がんにかかる割合は、65歳前後から高くなり、70代でもっとも多くかかります。前立腺がんの患者全体のうち、8割以上が65歳以上で、60代後半では罹患率が第1位のがんとなります。

前立腺がんになるのは欧米の男性に多く、その数は日本人の10倍でした。ところが、わが国も高齢化と食生活の欧米化で、部位別のがん罹患率では、1位肺、2位胃、3位大腸に次いで4位にまでなり、男性がん罹患全体の約14パーセントを占めます。近い将来、胃がんを抜いて3位になるのではないかとも予測されています。

前立腺のはたらきは、まだまだ解明されていないことも多いのですが、主に「排尿コントロール」「射精時の筋肉の収縮」「前立腺液の分泌」という3つのはたらきがあります。

進行が遅く予後がいいのが特徴

前立腺がんは、進行がゆっくりなのが特徴です。前立腺がんのがん細胞ができてから、治療を要するまでに約40年ほどかかると言われているほど進行がゆっくりです。つまり、余命に影響しない前立腺がんもあるということです。

早期の場合、がん特有の自覚症状がみられないため、受診のきっかけがないという問題点がありますが、血液検査で簡単に行えるPSA(前立腺特異抗原)検査による診断方法が普及し、早期に発見されるようになりました。この検査はまだ法定検査ではないため、自己負担で受けることになりますが、もしご家族に既往歴がある人は、40歳から年に1度の検診をお勧めします。

遺伝的な要素が比較的強く、遺伝性前立腺がんだと40代でも発症することも少なくありません。父親または兄弟が前立腺がんにかかった人がいれば発症リスクは2倍、父親と兄弟が両方かかっていれば9倍になります。

前立腺がんの発生原因

前立腺がんになってしまった原因

前立腺がんになると、「なにが原因でがんになったのだろう?」と多くの方が自分の人生を深く見つめ直すきっかけになります。

しかし、なぜ前立腺がんになったのかは、実はだれにも分かりません。危険な因子がなくてもがんになりますし、どんなに危険な因子が多くあっても、がんにならない人もたくさんいるのも事実です。

危険因子をとりのぞいて再発リスクを減らす体内環境をつくる

ここで大切なのは、危険因子がもしあれば、生活からそれをとりのぞくことです。「生活を変える」「意識を変える」「自分を変える」。自分が変われば前立腺がんが再発しにくい、あるいは転移しにくい体内環境をつくることにつながります。野菜や大豆、魚、緑茶、コーヒーに前立腺がんのリスクを低下させるという研究報告もあります。

ではここで危険因子をご紹介しましょう。

1. 動物性脂肪分と乳製品の摂取
日本の国立がん研究センターによる大規模な調査でも、乳製品を多く摂取する人ほど前立腺がんになるリスクが高くなることがわかっています。

2. 肥満と高カロリー摂取

3. 家族に前立腺がんにかかった人がいる

4. 加齢

5. 喫煙との関係を指摘する報告もあります。

症状と検査の方法

初期症状はほとんどなく、少し進行すると・・・

・尿道が圧迫される
・尿が出にくい
・尿のキレが悪い
・尿の回数が多い
・夜間、何度も起きてトイレに行く
・残尿感

これらの症状は、加齢とともにありがちなので、よく見過ごされがちです。しかし、本人が思っている以上に残尿感や頻尿は大きなストレスになり、夜中に何度もトイレに起きると質の高い眠りを得られないため、昼間の活動にも影響が出てきます。ぜひ一度、医師に相談してみましょう。検査も簡単に行えます。

症状は、前立腺肥大と似ていますが、前立腺肥大の場合、治療せずにそのまま経過を見ることがほとんどです。

検査方法

ステップ1 問診
問診では、ていねいにお話をうかがっていきます。次のような質問がありますので、受診前にまとめておくとよいでしょう。問診のあと、いくつかの検査の予定や次の診察日が決まります。

・排尿でなにか困っていることはないか?
・夜中に何度もトイレに起きることがあるか?
・他の病院を受診したか、治療を受けてきたか、先生の診断は?
・今までに入院するような病気になったか、手術を受けたことがあるか、内服している薬はあるか?
・アレルギー体質かどうか?
・血縁関係の人に前立腺がん体験者やその他のがんの治療経験があるか?

ステップ2 検査と診断
最初に行う主な検査は、2つです。直腸診(肛門から指を挿入して前立腺の腫れの状態を調べる)と血液検査(PSA検査)です。

PSA値で異常が見られた場合には、画像検査(経直腸的前立腺超音波検査)を行います。これは、超音波を発する器具を肛門から挿入し、前立腺の状態を調べるというものす。希望すれば、麻酔をしてから行うこともできます。

ステップ3 ステージの確定と治療方針の決定

精密検査では16段階に病期を分類

ここまでの検査でもし疑いがあった場合は、前立腺生体組織検査(生検)が行われます。これは、細い針で前立腺を刺して組織を採取して行います。画像検査で異常がみられない場所からも前立腺がんが発見されることがよくあるため、診断率を高めるには必要となる検査です。

前立腺がんと診断が出た場合、病期を確認するためCT検査、MRI検査、骨シンチグラフィ(骨への転移を検査)が行なわれます。

前立腺がんの病期は、国際的に用いられているがんの病期分類「TNM分類」が広く使われ、他のがんとは分け方がやや特殊す。T(がんの湿潤の程度)で1aからT4までの12段階、N(リンパ節転移の有無)N0とN1の2段階、M(遠隔転移の有無)がM0とM1の2段階、合計16段階にステージを分類します。

治療法は主に4つ。何もしない治療「待機療法」もある

前立腺がんの治療は主に、手術(外科治療)、ホルモン治療(内分泌療法)、放射線治療、待機療法の4つです、これらを組み合わせ、どのように治療するのかは、患者さんの状態や、がんの進行度などによって決められます。

医師は患者さんとよく話しあいながら、今後どの治療法がもっとも適切かを提案し決定していく、というのが一般的な流れです。とくに、前立腺がんには「待機療法」が取られる場合もあります。「少し様子を見ましょう」というケースで、慎重に経過観察を続けますす。年齢によっては命に関わらないこともあり、あえて積極的な治療を行わないほうがいい場合もあるからです。

検査における患者さんへのアドバイス

疑問・不安を解消することで、患者と医師の“信頼関係”は築かれる

たくさん行われる検査に、不安を感じられる方も多いことでしょう。もし、不安があれば、遠慮せず、担当医師に次のように医師に質問してみましょう。

「いま、なにを調べるための検査なのですか?」
「その検査は、本当にやる必要はあるのですか?」
「自分はいまどのステージですか?」
「今後、どのような治療をしていくのがベストですか?」
「QOL(生活の質)をなるべく落とさない治療法はどれですか?」

ご自分から、積極的に質問していきましょう。このような会話を交わすことで、おたがいに“信頼関係”を築くことができます。「安心して治療に向きあえる」という土台づくりこそが、前立腺がんに負けないファーストステップです。

前立腺がんでおこなう主な治療法について

前立腺んの治療で行われる4つの治療法についてご説明していきましょう。

手術(外科治療)

早期発見できた場合に適用されます。前立腺だけではなく、精嚢や精管、膀胱の一部なども切除の対象となります。最近では、技術が進み、勃起神経が温存できるなど手術法もあります。

また、腹腔鏡手術(お腹に数か所、小さな穴を開け、そこから手術器具を入れて行う手術)も広まっています。患者さんの身体への負担が少ないのがメリットです。

ホルモン療法

前立腺がんは男性ホルモンによって増殖するので、男性ホルモンを抑える薬を投与して進行を遅らせます。

放射線治療

通常は、外科手術できない進行したがん向きで、小さくすることが目的ですが、前立腺がんの場合は、放射線の感受性が高いので、早期から放射線治療によって根治を目指します。

また、放射線治療とホルモン療法を併用することで、放射線治療を単独で行うよりも遠隔転移発症率が低下します。とくに、がんが前立腺内にとどまっているのであれば、前立腺全摘手術とほぼ変わらないともいわれています。

放射線治療には3つあり、前立腺の中に放射線を出すカプセルを埋める「内照射」と外から照射する「外照射」、X線よりもピンポイントで病巣に照射できる放射線療法「粒子線治療」があります。ただし、「粒子線治療」は最先端のため、治療費が高額なので医師とよく相談しましょう。

⚫️副作用:排尿障害、勃起障害

待機療法

慎重に経過観察を続ける方法です。

前立腺がんについてのデータ

手術後ケア

前立腺がんの根治治療を受けた後も、定期的にPSA検査などで経過を観察する必要があります。

⚫️毎年新たに前立腺がんになる人 年間約4万7000人

⚫️前立腺がんの死亡者数 毎年約1万2000人

⚫️病期別5年生存率
T1〜T3(立腺に隣接する組織(膀胱、直腸、骨盤壁などにがんが及んでいない段階)であれば、ほぼ100%

⚫️再発 
早期発見して治療しても数年のうちに再発することも多くみられます。骨に転移しやすく、骨折して初めて受診すると発見されるケースもあります。

⚫️よくある前立腺がんの後遺症
手術後の排尿障害(頻尿、尿失禁、排尿痛など)や勃起障害、骨折しやすい(骨粗鬆症)などの副作用がありますが、実際、病院ではなかなかサポートしてくれない現状があります。前立腺がんにおける医療の現場では、こうした「悩み」に対するサポート、ケアが必要とされています。