リンパ液は、体中で生じた老廃物を回収してリンパ管の中を流れています。リンパは生体の免疫を担当し、異物(細菌やウイルスなど)の感染から体を守ったり、がんを攻撃したりするはたらきをしています。
悪性リンパ腫は、血液のがんともいわれ、リンパ系の組織から発生する腫瘍(がん)の総称です。病型にはいろいろなタイプがあり、80種類以上あります。一般的には、大きく分けると「ホジキンリンパ腫」と「非ホジキンリンパ腫」の2つがあります。
日本人に発生する腫瘍の9割以上は「非ホジキンリンパ腫」です。顕微鏡でわかる形態の違い、がん化するリンパ球の違い(B細胞性、T細胞性、NK細胞性)、進行の速さ(治療しないで放っておいた場合に推測される予後)などで11個のタイプに分類 されます。
悪性リンパ腫に、とくに制度化された検診はありません。主に首、脇の下、足の付け根などのリンパ節が腫れてきて、次第に大きくなり、鶏卵大以上になることもあります。
人の身体には、異物を捕まえて破壊するリンパ節は全身に400~700個ほどありますが、リンパ節以外にも胃や皮膚などあらゆる臓器や組織に腫瘤ができることがあります。健診などで偶然発見されることも珍しくありません。
「悪性」という病名がついていますが、治療により高い確率で治癒をめざすことができます。
悪性リンパ腫になると、「なにが原因でがんになったのだろう?」と多くの方が自分の人生を深く見つめ直すきっかけになります。
しかし、なぜ悪性リンパ腫になったのかは、実はだれにも分かりません。危険な因子がなくてもがんになりますし、どんなに危険な因子が多くあっても、がんにならない人もたくさんいるのも事実です。
悪性リンパ腫になるリスクが高まる因子は以下のとおりです。
1.EB(エプスタイン・バー)ウイルス、胃潰瘍の原因となるヘリコバクターやピロリなどのウイルスや細菌への感染による因子
2.遺伝子の変異や染色体異常
3.何か特定の化学物質や放射線などの影響
4.C型肝炎ウイルス
リンパ節(リンパ球が集まっている場所で、首、脇の下、足の付け根など)が腫れる。腫れているところを押しても痛くなく、固いのが特徴です。胸やお腹の中のリンパ節が腫れている場合は、その腫れに気づきにくくなります。
発熱、体重減少、寝汗をかくなどの症状を伴う場合は「B症状」といわれ、特に注意が必要です。
ステップ1 問診
問診では、次のような質問があります。受診前にまとめておくとよいでしょう。
・いつから症状が現れたか、悪くなっているか、良くなっているか?
・他の病院を受診したか、治療を受けてきたか、先生の診断は?
・今までに入院するような病気になったか、手術を受けたことがあるか、内服している薬はあるか?
・アレルギー体質かどうか?
・血縁関係の人にがん体験者やその他のがんの治療経験があるか?
・貧血、ひどい寝汗、発熱、体重減少(B症状)などはないか?
ステップ2 血液検査 など(どのタイプのリンパ腫かを検査する)
身体に負担をかけずに簡単に行える検査として、最初に「血液検査」を行います。貧血がないかや血小板の減少、腫瘍細胞が血液中にないかなどを検査します。悪性リンパ腫の可能性があると判断された場合は、リンパ節に針を直接刺して細胞を取り、「細胞診」という検査を行うこともあります。
確定診断として、腫れているリンパ節を切除し、「リンパ節生検」を行います。組織の形態や染色体異常の有無などから、どのような種類のリンパ腫であるのかを明らかにします(病理診断)。
ステップ3 全身の広がりの確認・ステージの確定・治療方針の決定
悪性リンパ腫の全身への広がりを見るため、胸部X線検査、CT検査、MRI検査、超音波検査、骨髄検査などが行われます。最近では、全身のPET検査も行われるようになってきました。「骨髄検査」では、悪性リンパ腫の細胞が骨髄に浸潤していないかを検査します。
病期は、4期に分けられ、胸と腹を分けている横隔膜より片側だけに病気がある限局期で、病変が1箇所に限局されている1期、2か所以上が2期です。横隔膜の両側(胸側と腹側)にも病気がある場合が3期、リンパ節以外の骨髄や肝臓などの臓器に広がっていると4期になります。
治療法は主に、抗がん剤治療(化学療法)、抗体療法(分子標的治療)、放射線療法、造血幹細胞移植などがあります。悪性リンパ腫のタイプと病期、年齢、全身状態、血液検査の結果などを見て、医師は患者さんとよく話しあいながら、今後どの治療法がもっとも適切かを提案し決定していく、というのが一般的な流れです。
また、病期を問わず、体と心のつらさを和らげる緩和ケアを同時に行うのが一般的です。
たくさん行われる検査に、不安を感じられる方も多いことでしょう。もし、不安があれば、遠慮せず、担当医師に次のように医師に質問してみましょう。
「いま、なにを調べるための検査なのですか?」
「その検査は、本当にやる必要はあるのですか?」
「自分はどのタイプの悪性リンパ腫で、現在はどのステージですか?」
「今後、どのような治療をしていくのがベストですか?」
「QOL(生活の質)をなるべく落とさない治療法はどれですか?」
ご自分から、積極的に質問していきましょう。このような会話を交わすことで、おたがいに“信頼関係”を築くことができます。「安心して治療に向きあえる」という土台づくりこそが、悪性リンパ腫に負けないファーストステップです。
早期の場合は「放射線治療」、進行期の場合は「抗がん剤治療(化学療法)」が一般的です。放射線の感受性が高く、がんが1か所にまとまっている場合であれば、放射線照射が効果を発揮します。
抗がん剤治療では、あくまでも「治癒」(完全に治ること)ではなく、「完全寛解」を目指します。「完全寛解」(かんぜんかんかい)とは、病気が完全に治った状態ではなく、一時的に症状が軽くなったり消えたりしている状態のことを表します。
治療は「抗がん剤治療(化学療法)」が基本です。悪性リンパ腫は、抗がん剤の感受性が高いのが特徴です。また、「生物学的製剤」として最近よく使われる「リツキサン」という薬があり、CD20という成熟B細胞タイプの悪性リンパ腫に効果があります。
また、進行型の遅いリンパ腫の場合、なにもせずに「経過観察」をする場合もあります。
他にも、血液のもととなる細胞を移植する「造血幹細胞移植」もあります。再発の可能性が高いときは、大量の抗がん剤投与や放射線照射を行うため、血液をつくる能力も破壊されてしまいますので、血液を正常な状態に回復させるために、患者さん自身や患者さん以外の提供者からの造血幹細胞を移植するやり方です。
●副作用
薬物療法は、正常な細胞も攻撃することになるので、薬物有害反応(いわゆる副作用)が生じることがあります。倦怠感、脱毛、嘔気、下痢、発熱、出血、脱水などです。女性ならば、将来的に妊娠・出産を希望するときは、まえもって担当医に相談しておくことが大切です。
しかし、近年では副作用に対する治療(支持療法ともいわれています)が、かなり進歩してきています。担当医に「副作用の症状を軽減させるための治療はありますか?」と相談してみましょう。
再発を予防するために、治療後も定期的に抗がん剤の投与を行い、血液検査やCT検査などの定期検査も必要になります。
治療後3年間のうちに再発しなければ、再発率は非常に低くなります。なぜなら、再発する患者さんの約9割は2年以内に再発しているからです。もし3年間再発しなければ、その後も再発しないことが多い傾向にあります。
■日本人の悪性リンパ腫の発症数 毎年1万2000人(発症率は10万人に15人程度)
■頻度(悪性リンパ腫の死亡数 人口10万人に対し、男性4人、女性2人程度
■治療後の5年生存率(ホジキンリンパ腫)
1期 約90%
2期 約80〜90%
3期 約65〜80%
4期 約40〜65%
※多剤併用化学療法によって10年生存率は、約70%です。
■治療後の5年生存率(非ホジキンリンパ腫)
1期 約70〜90%
2期 約70〜80%
3期 約50〜70%
4期 約50〜65%