末期がんの緩和ケア ご家族のための「在宅緩和ケア」「自宅での医療」の知識【神奈川県川崎市幸区の在宅緩和ケアクリニック】

肺がん

肺がんの特徴

わが国のがんによる死亡原因の第1位

肺は呼吸によって身体の中に酸素を取り入れ、二酸化炭素を排出する重要な役割をしています。

肺がんは、1960年代から80年代に急激に増加し始め、現在、わが国のがんによる死亡原因の第1位です。40歳代後半から罹患率・死亡率ともに増加し始め、男性のほうが女性より肺がんの罹患率・死亡率が高く、女性の2倍から3倍にのぼります。

肺がんの一般的な初期症状は、風邪やほかの呼吸器疾患の症状とよく似ているため、区別がつきにくいのが特徴です。とくに肺の末梢に発生するタイプの肺がんは、がんが大きくなるまで無症状のことが多いので注意が必要です。

見つかった時には、約8割の人はすでに進行しているため、手術ではなく別の方法によって治療が進められます。

肺がんの患者さんの8割は喫煙歴がある

肺がんは肺の気管、気管支、肺胞の一部の細胞が何らかの原因でがん化したものです。がん細胞の出現原因にもっとも影響を与えているのが喫煙です。 肺がんの患者さんの8割は喫煙歴があるとの報告もあります。

肺がんは大きく分けると「小細胞がん」と「非小細胞がん」の2つあります。増殖が速く、脳やリンパ節・肝臓などに転移しやすい悪性度の高いのが「小細胞肺がん」。それ以外の肺がんを総称したのが「非小細胞がん」で、肺がんの80パーセント前後を占めています。

非小細胞がんで、早期治療をすれば5年生存率は50~70%ですが、肺内のリンパ節に転移した場合、5年生存率は30~50%に下がってしまいます。

肺がんの発生原因

肺がんになってしまった原因

肺がんになると、「なにが原因でがんになったのだろう?」と多くの方が自分の人生を深く見つめ直すきっかけになります。

しかし、なぜ肺がんになったのかは、実はだれにも分かりません。危険な因子がなくてもがんになりますし、どんなに危険な因子が多くあっても、がんにならない人もたくさんいるのも事実です。

危険因子をとりのぞいて再発リスクを減らす体内環境をつくる

ここで大切なのは、危険因子がもしあれば、生活からそれをとりのぞくことです。「生活を変える」「意識を変える」「自分を変える」。自分が変われば肺がんが再発しにくい、あるいは転移しにくい体内環境をつくることにつながります。

ではここで危険因子をご紹介しましょう。

1.禁煙する
喫煙との関係が非常に深いがんです。2008年の日本人を対象とした研究では、喫煙者の肺がんリスクは男性で4・8倍、女性で3・9倍という結果でした。欧米では、喫煙者の肺がんリスクは、非喫煙者の20倍以上とされています。

しかし、たばこを吸わない人でも発症します。受動喫煙により発症リスクが高まることもわかっています。たばこの煙には、約数千種類の物質が含まれていて、活性酸素のひとつ「スーパーオキサイド」ががん細胞の発生に関わるとされています。

2.加齢(50歳以上)

3.家族歴と既往歴
たとえば呼吸器疾患・喘息・じん肺・特発性間質性肺炎(とくはつせいかんしつせいはいえん)など

4.不安やストレス
ストレスは免疫力を低下させることがわかっています。ストレスを溜め込まず、だれかに「話す」(=放す)ことで、執着から解放されて自分から手放すことができます。わたしはいつでもあなたのお話を聞く準備はできています。

肺は新鮮な酸素を取り入れて、全身に運ばれ、二酸化炭素を外に排出するとても大切な器官です。1日1回は、ぜひ深くゆっくりとした呼吸を意識して行いましょう。副交感神経が優位になって、心身ともにリラックスすることができます。

症状と検査の方法

初期症状

・咳が4週間以上続く
・血痰
・呼吸するとゼーゼー音がする(喘鳴)
・息切れがする
・声がかすれる
・胸が痛む
・発熱

進行すると・・・

・胸水貯留(胸膜への転移)
・頭痛、吐き気、嘔吐(脳転移の症状)
・腰痛や胸痛(骨転移)

検査方法

ステップ1 問診
問診では、ていねいにお話をうかがっていきます。次のような質問がありますので、受診前にまとめておくとよいでしょう。問診のあと、いくつかの検査の予定や次の診察日が決まります。

・タバコは吸うか? 1日何本か? 家族でタバコを吸う人はいるか?
・他の病院を受診したか、治療を受けてきたか、先生の診断は?
・今までに入院するような病気になったか、手術を受けたことがあるか、内服している薬はあるか?
・アレルギー体質かどうか?
・血縁関係の人にがん体験者やその他のがんの治療経験があるか?

ステップ2 検査と診断
胸部のX線検査を行います。喫煙者(1日の喫煙本数X喫煙年数が400以上あるいは600以上の方)は、喀痰細胞診(かくたんさいぼうしん)を行います。痰に混じって出てくるがん細胞の有無を顕微鏡で観察します。

「胸部X線検査」と「喀痰細胞診」の組み合わせによって、肺がんがある人を正しく診断できる精度は、70パーセント前後です。胸部X線検査の約3パーセント、喀痰細胞診の約1パーセントが精密検査が必要という結果がでます。

精密検査では、胸部CT検査、気管支鏡検査、別の臓器への遠隔転移の有無を調べるために脳のMRI検査や腹部のCTなどを行います。

ステップ3 ステージの確定と治療方針の決定
肺がんの病期は、1期、2期、3期、4期に分類されています。主な治療法として、手術(外科治療)、抗がん剤治療(化学療法)、放射線治療の3つあり、これらを組み合わせ、どのように治療するのかは、患者さんの状態や、がんの進行度などによって決められます。

医師は患者さんとよく話しあいながら、今後どの治療法がもっとも適切かを提案し決定していく、というのが一般的な流れです。

検査における患者さんへのアドバイス

疑問・不安を解消することで、患者と医師の“信頼関係”は築かれる

たくさん行われる検査に、不安を感じられる方も多いことでしょう。もし、不安があれば、遠慮せず、担当医師に次のように医師に質問してみましょう。

「いま、なにを調べるための検査なのですか?」
「その検査は、本当にやる必要はあるのですか?」
「自分はいまどのステージですか?」
「今後、どのような治療をしていくのがベストですか?」
「QOL(生活の質)をなるべく落とさない治療法はどれですか?」

ご自分から、積極的に質問していきましょう。このような会話を交わすことで、おたがいに“信頼関係”を築くことができます。「安心して治療に向きあえる」という土台づくりこそが、肺がんに負けないファーストステップです。

肺がんでおこなう主な治療法について

肺がんの治療は主に、手術(外科治療)、抗がん剤治療(化学療法)、放射線治療の3つです。

手術(外科治療)

肺にできたがんを完全に取り除くことを目的に行われます。通常は、がんが含まれている肺葉を切除するか、片側の肺を全て切除します。リンパ節を切除して、がんがリンパ節に転移しているかどうかを調べます。

術後、さまざまな合併症を起こす可能性があります。順調に経過すれば、4日から5日で退院することができます。順調に術後を乗り切るためには、痰をしっかり出すことが重要です。

⚫️メリット
がん細胞を取り除くことによって、再発や転移を防ぐ効果が期待できます。

薬物療法(抗がん剤治療)

「抗がん剤は毒だ。医者の金儲けのために患者は利用されている」といった話がまことしやかに語られています。抗がん剤を使用中は、一時的に免疫力は落ちますが、治療後は体力は徐々に回復するので、けっしておそれるものではありません。

治療の目的は、術前化学療法、術後化学療法、遠隔転移に転移があるとき、または転移がなくても再発する可能性が高いとき、再発してしまったときの治療法としておこないます。また、手術ができるがんに対して薬物療法を行い、できるだけ小さくしてから手術にのぞむ場合もあります。

錠剤やカプセルなどの「のみ薬」と、「点滴や注射などで血管(静脈)に直接抗がん剤を注入する方法」があります。薬物療法には、以下の2つの種類があります。

1.化学療法:化学物質によってがんの増殖を抑え、がん細胞を破壊する治療
2.分子標的治療:分子レベルでがん細胞だけを標的にした薬を用いて行う治療。

⚫️メリット
・転移があっても、がん細胞の増殖を抑えて攻撃できる。
・入院せず外来での治療もできる。
 
⚫️副作用
薬の種類によって重篤な下痢をおこすものやアレルギーがある人には向かない薬もあります。薬物療法は、正常な細胞も攻撃することになるので、薬物有害反応(いわゆる副作用)が生じることがあります。

血液細胞が減ったり、口の中や胃腸の粘膜の再生が起こりにくくなったり、髪の毛や爪が伸びなくなったり、風邪をひきやすくなったり、貧血、吐き気、口内炎、脱毛など。女性ならば、将来的に妊娠・出産を希望するときは、まえもって担当医に相談しておくことが大切です。

しかし、近年では副作用に対する治療(支持療法ともいわれています)が、かなり進歩してきています。担当医に「副作用の症状を軽減させるための治療はありますか?」と相談してみましょう。注射(点滴)薬と内服(経口)薬があります。

放射線治療

高エネルギーのX線を体の外から照射してがん細胞を傷つける治療法で、薬物療法と同時に行うこともあります。根治することを目的に行う(根治的胸部放射線療法)場合と、骨や脳への転移にしてしまった場合、痛みを緩和するために(緩和的放射線療法)行います。

⚫️副作用
やけどのような症状を起こすことがあります。色素が沈着したり、かゆみが起こることもあります。

肺がんについてのデータ

手術前準備

手術までの間に深呼吸や咳をする練習をしておきます。

手術後ケア

手術後の肺は、非常に合併症が起きやすいので、人工呼吸器が外れた直後から、深く大きな呼吸を行うようにしましょう。深呼吸の仕方、よりスムーズな痰の出し方など、あらかじめ担当医に相談しましょう。

⚫️肺がんで死亡する人  年間約7万人

⚫️病期別5年生存率(2014年10月)
1期 80.7パーセント
2期 42.5パーセント
3期 21.2パーセント
4期 4.7パーセント

⚫️再発率 
がんの中でも再発や転移しやすいのが肺がんです。病期が早い段階で手術できても、5年以内に再発するケースも少なくありません。再発した肺がんは進行が速く、根治手術は難しいため、抗がん剤治療や放射線治療、緩和ケアなどが中心に行われます。

⚫️よくある肺がんの後遺症
手術後、息切れなどが起こることがあります。術後、痰が増加し、呼吸機能の低下や痛みなどによって痰が出しづらくなり、肺炎になりやすい状態になります。