末期がんの緩和ケア ご家族のための「在宅緩和ケア」「自宅での医療」の知識【神奈川県川崎市幸区の在宅緩和ケアクリニック】

胃がん

胃がんの特徴

日本は世界的にみても早期発見の技術や手術成績が優秀

胃がんは、2番目に多いがんです。かつては、日本人のがんによる死亡率の第1位でした。しかし、診断方法や治療方法が向上し、男性では第2位、女性は第3位になっています。日本は世界的にみても、早期発見の技術や手術成績がたいへん優れており、有効な抗がん薬の開発も進み、胃がんの治癒率は格段に改善されています。

胃がんの男女比は2対1と男性に多く、男女とも60代に発症のピークがあります。中国や日本、韓国などの東アジアや南米で高く、欧米など白人では低いのが特徴です。

胃には、主に2つの役割があります。一時的な食料の「貯蔵」と「消化」です。胃で食べたものを粥状にして、適量ずつ十二指腸へと送り出し、小腸で効率のよい消化吸収がおこなわれます。胃がんは、胃の壁のいちばん内側にある粘膜内の細胞が、がん細胞(悪性腫瘍)になったものです。

胃がんは進行がん=末期ではない。早期発見なら95%治癒

胃がんには「早期胃がん」と「進行胃がん」」の2つに分けられます。粘膜から粘膜下層までの胃がんが「早期胃がん」、固有筋層までの深さに達したがんが「進行胃がん」です。

進行胃がんになると、がんの増殖スピードが高まり、肝臓や膵臓、肺、骨に転移します。胃がんの約10パーセントを占めるのが悪質な「スキルス胃がん」で、進行していくと胃が硬くなっていきます。30?40歳代の女性に多く、治療が困難ながんです。

「早期胃がん」のほとんどが無症状で、「進行胃がん」でも約半数の人に自覚症状はありません。慢性的な胃の不快症状がある人、またはまったく無症状でも40歳を超えたら、内視鏡またはX線検査による健康診断を定期的におこなうことをおすすめしています。早期発見なら95パーセントは治癒しますので、胃がんは早く見つければほぼ完全に治せる病気になっています。

胃がんの発生原因

胃がんになってしまった原因

胃がんになると、「なにが原因でがんになったのだろう?」と多くの方が自分の人生を深く見つめ直すきっかけになります。

しかし、なぜ胃がんになったのかは、実はだれにも分かりません。危険な因子がなくてもがんになりますし、どんなに危険な因子が多くあっても、がんにならない人もたくさんいるのも事実です。胃がんの原因として、深く関わりがあると考えられているのが食生活とピロリ菌です。

危険因子をとりのぞいて再発リスクを減らす体内環境をつくる

ここで大切なのは、危険因子がもしあれば、生活からそれをとりのぞくことです。「生活を変える」「意識を変える」「自分を変える」。自分が変われば、胃がんが再発しにくい、あるいは転移しにくい体内環境をつくることにつながります。

ではここで、変えるための5つのポイントをご紹介しましょう。

1.塩分の過剰摂取をやめる。
国立がんセンターの研究でも、塩分摂取量の多い地域ほど、胃がんでの死亡率が高くなっています。1日の塩分摂取量8グラムの沖縄県のある地域に比べて、約13gの秋田県のある地域では、死亡率は3倍という結果でした。

2.動物性食品の摂取をひかえめにする。

3.野菜と果物(ビタミン)の摂取不足を改善する。

4.タバコをやめる。
タバコの中に含まれる有害物質が胃の粘膜を刺激して胃がんの原因を作ります。

5.慢性胃炎は早めに改善する。
成因のほとんどが、胃や小腸に炎症や潰瘍をおこす細菌(ヘリコバクターピロリ菌)とされています。胃がんやリンパ腫の発生に強く関連していると考えられています。

6.不安やストレス、心配事をだれかに話す。
ストレスは免疫力を低下させることがわかっています。ストレスを溜め込まず、だれかに「話す」(=放す)ことで、執着から解放されて自分から手放すことができます。わたしはいつでもあなたのお話を聞く準備はできています。

症状と検査の方法

初期症状

・食欲不振
・吐き気がつづく
・胃や胸のあたりの不快感
・体重の減少(半年で10パーセント以上)
・貧血が原因による倦怠感、ふらつき、だるい
・げっぷが頻繁に出る
・便が黒い(出血によるもの)

さらに進行すると・・・・

・味覚障害
・不眠
・下痢や軟便
・下血、吐血
・黄疸(肝臓に転移)
・骨折(骨に転移)

検査方法

国の方針では、胃がんの一次検査では、「問診」「胃X線検査」、「胃内視鏡検査」、「ペプシノゲン検査」、「ヘリコバクターピロリ抗体検査」がすすめられています。

ステップ1  問診
問診では、ていねいにお話をうかがっていきます。次のような質問がありますので、受診前にまとめておくとよいでしょう。問診のあと、いくつかの検査の予定や次の診察日が決まります。

・いつから症状が現れたか、悪くなっているか、良くなっているか?
・他の病院を受診したか、治療を受けてきたか、先生の診断は?
・今までに入院するような病気になったか、手術を受けたことがあるか、内服している薬はあるか?
・アレルギー体質かどうか?
・血縁関係の人にがん体験者やその他のがんの治療経験があるか?

ステップ2 検査と診断
ここでは、検査が続き、結果が出るまで、少し時間がかかることもあります。

1.胃X線検査(最低7枚。通常7~8枚)
バリウム(造影剤)と発泡剤(胃をふくらませる薬)を飲み、胃の中の粘膜を観察します。がんがあるか、ないかを正しく診断できる精度は、70~80パーセントです。

2.胃内視鏡検査
内視鏡を口や鼻から挿入して、胃の中を内視鏡で直接観察します。ステップ2の胃X線検査でがんが疑われた場合、確定審診断をつけるための精密検査です。

3.ペプシノゲン検査
血液検査によって、胃粘膜がどれくらい萎縮しているかを調べます。一部の胃がんは萎縮の進んだ粘膜から発生することがあるためです。

4.ヘリコバクターピロリ抗体検査(血液検査など)
胃がんの診断をするのではなく、ヘリコバクターピロリ菌に感染しているかどうかを調べます。

ステップ3 ステージの確定と治療方針の決定
ステージには、「胃の粘膜に限局している」ところから「肝、肺、骨、腹膜など遠隔転移している」ところまで、7つのステージに分類されます。ステージが確定されたら、手術ができるかどうかを判断します。

すでに他の臓器に転移していると、「手術不適合」(医師がよく使う言葉です)と判断されることがあります。その場合、医師は患者さんとよく話しあいながら、今後どの治療法がもっとも適切かを提案し決定していく、というのが一般的な流れです。

検査における患者さんへのアドバイス

疑問・不安を解消することで、患者と医師の“信頼関係”は築かれる

たくさん行われる検査に、不安を感じられる方も多いことでしょう。もし、不安があれば、遠慮せず、担当医師に次のように医師に質問してみましょう。

「いま、なにを調べるための検査なのですか?」
「その検査は、本当にやる必要はあるのですか?」
「自分はいまどのステージですか?」
「今後、どのような治療をしていくのがベストですか?」
「QOL(生活の質)をなるべく落とさない治療法はどれですか?」

ご自分から、積極的に質問していきましょう。このような会話を交わすことで、おたがいに“信頼関係”を築くことができます。「安心して治療に向きあえる」という土台づくりこそが、胃がんに負けないファーストステップです。

胃がんでおこなう主な治療法について

胃がんの治療は、内視鏡治療、手術(外科治療)、薬物療法(抗がん剤治療)の3つが中心です。治療法は、病期(ステージ)に基づいて決まります。

内視鏡治療

早期の胃がんの中でも、リンパ節に転移のある危険性のほとんどない場合に適用されます。

●メリット
・体への負担が少ない。胃を温存できる。

外科手術

1.普通の胃切除(開腹)
胃の2/3以上の範囲の切除と郭清を行う方法で、多くの胃がんに現行も行われる手術方法です。すべて切除する場合は、胃全摘手術といわれます。

2.拡大手術(開腹)
膵臓、脾臓や大腸、肝臓の一部など、胃以外の他臓器も切除したり、取り除くリンパ節の範囲を広げたりして、定型的に行われている手術の範囲を超えて行う手術です。これに対して、臓器の切除範囲を小さくする縮小手術というのもあります。

3.腹腔鏡下手術
お腹に小さい穴を数か所開けて、専用のカメラや器具で手術を行う方法です。開腹手術よりも身体への負担が少なく、手術後の回復が早いのがメリットです。非常に高い技術が求められる手術で、手術件数は増加していますが、手術件数は全体としてはまだ少ないのが現状です。

4.緩和手術
「palliative operation」といって、日本語にすると「姑息手術」といわれるものです。これは、姑息な(卑怯な)手術法ではなく、医師によって「緩和手術」(痛みを和らげるための手術)という言葉を使う人もいます。完治するのはむずかしいけれど、家族と一緒にすごせる時間を増やし、患者さんの痛みを少なくすることを目的にした手術です。

●メリット
・がん細胞を取り除くことによって、再発や転移を防ぐ効果が期待できます。

薬物療法(抗がん剤治療)

「抗がん剤は毒だ。医者の金儲けのために患者は利用されている」といった話がまことしやかに語られています。抗がん剤を使用中は、一時的に免疫力は落ちますが、治療後は体力は徐々に回復するので、けっしておそれるものではありません。

治療の目的は、術前化学療法、術後化学療法、遠隔転移に転移があるとき、または転移がなくても再発する可能性が高いとき、再発してしまったときの治療法としておこないます。また、手術ができるがんに対して薬物療法を行い、できるだけ小さくしてから手術にのぞむ場合もあります。

錠剤やカプセルなどの「のみ薬」と、「点滴や注射などで血管(静脈)に直接抗がん剤を注入する方法」があります。薬物療法には、以下の2つの種類があります。

1.化学療法:化学物質によってがんの増殖を抑え、がん細胞を破壊する治療。
2.分子標的治療:分子レベルでがん細胞だけを標的にした薬を用いて行う治療。

●メリット
・転移があっても、がん細胞の増殖を抑えて攻撃できる。
・入院せず外来での治療もできる。

●副作用
薬の種類によって重篤な下痢をおこすものやアレルギーがある人には向かない薬ものあります。薬物療法は、正常な細胞も攻撃することになるので、薬物有害反応(いわゆる副作用)が生じることがあります。

血液細胞が減ったり、口の中や胃腸の粘膜の再生が起こりにくくなったり、髪の毛や爪が伸びなくなったり、風邪をひきやすくなったり、貧血、吐き気、口内炎、脱毛など。女性ならば、将来的に妊娠・出産を希望するときは、まえもって担当医に相談しておくことが大切です。

しかし、近年では副作用に対する治療(支持療法ともいわれています)が、かなり進歩してきています。担当医に「副作用の症状を軽減させるための治療はありますか?」と相談してみましょう。注射(点滴)薬と内服(経口)薬があります。

胃がんについてのデータ

手術後ケア(定期検診の頻度)

一般的に、術後3か月ごとに診察をおこない、患者さんからその後の様子をていねいにお話をうかがいます。術後すぐの3か月で内視鏡検査、半年後に採血、胸部X線、腹部超音波などの検査をおこないます。

⚫️胃がん検診受診率(対象年齢の40歳以上) 男性は42.6%、女性は31.6%

⚫️日本人の胃がん発症率  毎年10万人(肺がんは5万人)

⚫️胃がんで死亡する人  年間約5万人(肺がんは7万人)

⚫️病期別5年生存率
1期 97.6パーセント
2期 69.2パーセント
3期 45.5パーセント
4期 8パーセント

⚫️スキルス胃がんの5年生存率 約20%

⚫️再発
胃がんの場合は、手術後3年以内に再発するケースが多くみられます。また、再発すると以前おこなった抗がん剤などに対する耐性ができてしまい、以前と同じ治療では効果がでないことが多くなります。

⚫️よくある胃がんの後遺症
胃がなくなるまたは小さくなったことで、食物が小腸に急激に流れ込むことで「ダンピング症候群」という症状が起こります。たとえば動機・血圧低下・貧血・めまい・脱力感・冷汗・腹部膨満感・腹痛・おなかが鳴るなどのような症状です。

また、消化不良のため下痢をします。胃の入り口(噴門部)を切除した場合、胃液や胆汁などが食道に逆流してくる「逆流性食道炎」にかかりやすくなります。これを防ぐには、脂っこい食事を控えるとともに、食後すぐ横にならないなどの食事と生活習慣の見直しが必要です。