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夕方の風に、ほんの少し秋の匂いがまじってきました。

メディ在宅クリニック院長 髙橋 保正です。

昼間はまだ汗ばむのに、日が落ちると虫の声。

季節の変わり目は、患者さまのお体にこたえる時期でもあります。

でも、ご安心くださいませ。

朝晩の寒暖差も、こまやかなお手当で乗り越えてまいります。

今年の秋も、24時間、準備万端でスタンバイしています。

さて、「お家のものがたり」も第2話となりました。

今月の「お家のものがたり」は、ある職人さんの物語です。

「麻薬なんて使ったら、頭がぼける」

そうおっしゃって、痛み止めを拒まれる患者さまは、少なくありません。

その誤解を、私たちはどう解いていくのか。

五十年、鉋を握り続けた職人さんが教えてくださった答えを、どうぞお読みくださいませ。

お家のものがたり
第2話 鉋(かんな)の音

タケオさん(80代)は、五十年間、建具職人でした。

胃がんが見つかったとき、もう手術のできない段階でした。

「病院で寝てるくらいなら、作業場の匂いを嗅いでいたい」

お家の隣に、小さな作業場がありました。

杉と檜と、機械油の匂い。壁の棚には、鉋だけで三十本以上。

初めての訪問の日、タケオさんは診察もそこそこに、私を作業場へ連れて行かれました。

「先生、いい鉋屑を見たことあるか」

木箱の中には、向こうが透けるほど薄い鉋屑が、絹のように丸めてありました。

「これが、わしの人生だ。カルテに書いとけ」

私は本当に、カルテの一行目に書きました。秋、痛みが強くなりました。

私は医療用麻薬をご提案しましたが、タケオさんは首を横に振られました。

「麻薬なんか使ったら、頭がぼける。道具の手入れができんようになったら、おしまいだ」

よくある誤解です。でも、誤解と切って捨てては、職人さんは動きません。

私はお尋ねしました。

「タケオさん、鉋の刃は、出しすぎたらどうなりますか」

「食い込んで、材を傷める」

「引っ込めすぎたら」

「削れん。ただ撫でるだけだ」

「医療用麻薬も同じです。出しすぎれば眠くなる。足りなければ痛みが削れない。私の仕事は、その刃の出を、タケオさんの痛みに合わせて、ちょうどに調整することです。頭はそのまま。失敗したら、やり直します」

タケオさんは長いこと黙って、私の顔をご覧になっていました。

職人が、若い衆の腕を値踏みする目でした。

「……なら、調整を頼む。失敗したら、承知せんぞ」

少しずつ少しずつ、三度目の調整で、刃はちょうどに入りました。

夜眠れるようになり、朝ごはんが戻り、作業場で一時間、過ごせるようになりました。

「頭がぼけたか」と毎回伺う私に、「ぼけとらん。先生の顔と名前が一致しとる」と毎回同じ憎まれ口。

ある日の訪問で、作業場からシュッ、シュッ、といい音が聞こえました。

鉋をかけていたのは、跡を継がなかった息子さんでした。

タケオさんは横の椅子で目を閉じて、聴いておられました。

「音でわかる。刃が、いい角度に入っとる」

タケオさんは、秋の彼岸に、ご家族に囲まれて旅立たれました。

頭は、最期までぼけませんでした。

四十九日ののち、息子さんが小さな杉の木箱を届けてくださいました。

お二人で作られた、最後の作品でした。

蓋の裏に、鉛筆の細い字で、こう書いてありました。

「先生へ。調整、ちょうどよかった。 タケオ」

その木箱は今も診療所の棚にあって、私の聴診器が入っています。

痛みは「我慢するもの」ではなく、「調整するもの」。それが大事。

病院医師・看護師・連携室職員のみなさまからよくある質問にお答えします。
病院の看護師の方からのご相談です。
がんの痛みが強い患者さまですが、「麻薬は絶対に嫌だ」と拒否されています。中毒になる、頭がぼける、寿命が縮む、と思い込んでおられるようです。在宅に移られたあと、痛みのコントロールはできるのでしょうか。

ご相談ありがとうございます。

大丈夫です。ご安心くださいませ。

「麻薬は嫌だ」とおっしゃる患者さまを、私たちは何人も何人もお手当してきました。

医師の管理のもとで痛みに合わせて使う医療用麻薬は、依存を起こすことはほとんどありません。

量の調整で、意識を保ったまま、痛みだけを和らげることができます。

命を縮めるという報告も、ありません。

でも、正しい知識をお伝えするだけでは、患者さまのお心は動かないのです。

大切なのは、その方の言葉で説明すること。

職人さんには、鉋の刃の調整にたとえて。

お料理の好きな方には、塩加減にたとえて。

「効きすぎず、足りなすぎず、ちょうどに合わせるのが私の仕事です」とお約束します。

そして、痛みを我慢することのほうが、食欲も睡眠も、生きる気力も奪ってしまうことをお伝えします。

ですから、麻薬を拒否されている患者さまも、どうぞそのまま私たちにお任せくださいませ。

説得ではなく、納得。

時間をかけて、少しずつ少しずつ、私たちが伺いますからね。

いつも大切な患者さまをご紹介いただき、ありがとうございます。

メディちゃんの
「やわらか頭体操」
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病院の相談員の方からのご相談です。がん終末期の患者さまの退院支援をしています。ご家族は高齢の奥さまお一人で、医療の知識も介護の経験もありません。医療用麻薬の管理や急変時の対応を考えると、自宅退院は無理ですよね。
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