末期がんの緩和ケア ご家族のための「在宅緩和ケア」「自宅での医療」の知識【神奈川県川崎市幸区の在宅緩和ケアクリニック】

乳がん

乳がんの特徴

自己検診ではなく定期的な乳がん検診が不可欠

わたしは「乳がん検診応援サイト」を運営し、年間4000人の女性を診察しています。よくネットの情報で「ふだんから自分で触ってチェックすれば大丈夫」と書かれたものがありますが、それは大きなまちがいです。

セルフチェックももちろん重要ですが、それで安心して検診を怠ると、自己検診で触って見つかったときには2センチ以上(病期ステージ2)などということにもなりかねません。

わが国においては、食生活の欧米化により、乳がんの患者さんは増えてきています。乳がんと診断される女性は1年間に4万人にのぼります。30歳代から高くなり、50歳前後がピークとなります。

にもかかわらず、日本での乳がん検診受診率はわずか10パーセント、わたしの病院がある神奈川県ではわずか5パーセントにしかすぎません。乳がん検診受診率が高いアメリカで60パーセント、また、オランダやイギリスで75パーセント以上です。

わたしたち乳腺外科医は、ピンクリボン運動(乳がんの正しい知識を広め、乳がん検診の早期受診を推進することなどを目的として行われる世界規模の啓発キャンペーン)を応援しています。

30歳をすぎたら、ぜひとも毎年、乳がん検診を受けるようにしましょう。すこしでも異常を感じたら、すぐに「乳腺外来」を受診するようにしましょう。

超早期発見の0期ならほぼ100%治癒できる

乳がんは早期発見をすれば治癒できる病気です。健康診断でしか見つからない、あるいはしこりとしてまだ触れないという0期の段階で見つかれば、10年後の生存率は100パーセント近くあります。

乳がんが直径1センチになるまでに8.8年かかり、その間にほとんどのがんが転移を起こしていると考えられます。乳がんはゆっくり成長するタイプのがんなので、小さいうちに発見して、全身への微小な転移を適切な治療で消滅させることが大切です。でも、もしも、発見が遅れても、さまざまな治療法があるので心配することはありません。

乳がんの発生原因

乳がんになってしまった原因

乳がんになると、「なにが原因でがんになったのだろう?」と多くの方が自分の人生を深く見つめ直すきっかけになります。

しかし、なぜ乳がんになったのかは、実はだれにも分かりません。危険な因子がなくてもがんになりますし、どんなに危険な因子が多くあっても、がんにならない人もたくさんいるのも事実です。

乳がんになるリスクが高まるのは、女性ホルモンであるエストロゲンがたくさん体内に存在する場合です。以下の方があてはまりです。

1)早い初潮、遅い閉経、未婚・未産、高齢初産
月経回数が多いほど、女性ホルモンに多くさらされるからです。

2)肥満、アルコールや動物性脂肪の摂取
脂肪細胞内で、エストロゲン生成酵素が分泌されています。また、アルコール摂取がエストロゲンを増量させると言われています。

3)ホルモン補充療法
エストロゲンを補充しているので当然ですね。

4)経口避妊薬
ピルのなかには女性ホルモンが含まれており、関連はありそうです。でも、最近の低用量ピルでは因果関係は少ないようです。

5)家族歴・遺伝子
母親や姉妹が乳がんの場合には、約2倍の危険性。
母親、姉妹ともに乳がんの場合は、約13倍の危険性になります。

6)乳腺疾患をもつ人
片方の乳がんになった人は、もう一方の胸が乳がんになる可能性は約5倍と言われています。

7)その他
ストレスと肥満も乳がんの危険因子です。とくに閉経後、脂肪の多い食事をとりすぎると乳がんになるリスクが高まる可能性があり、乳がんの初期治療後の肥満は、乳がん再発リスクを上昇させる可能性があるとも言われています。

症状と検査の方法

初期症状

・乳房が痛い、熱い
・乳房にしこり、またはくぼみがある
・左右の乳首の位置がちがう
・乳首が陥没している
・乳房の皮膚に赤みや変色がある
・乳頭がただれている
・乳頭から出血や分泌液が出る
・首やわきの下にしこり、腫れがある
(乳がんをそのまま放置しておくとワキの下のリンパ節に転移して腫れてきます)

検査方法

乳がん検診は本来、触診とマンモグラフィーと超音波を組み合わせてはじめてその威力を発揮します。まずは順を追って、ご説明していきましょう。

ステップ1 問診
 問診では、次のような質問があります。受診前にまとめておくとよいでしょう。

・いつから症状が現れたか、悪くなっているか、良くなっているか?
・他の病院を受診したか、治療を受けてきたか、先生の診断は?
・今までに入院するような病気になったか、手術を受けたことがあるか、内服している薬はあるか?
・アレルギー体質かどうか?
・血縁関係の人に乳がん体験者やその他のがんの治療経験があるか?

ステップ2 視触診
乳房と乳頭に異常がないかどうか、乳房のくぼみや発赤、乳首の陥没がないかをチェックします。
また、両側の乳房を比較して大きさに極端に差がないかどうかも確認します。触診では、両側の乳房と脇の下と首のリンパ節を触って異常がないことを確認します。

ステップ3 マンモグラフィー(乳腺・乳房専用レントゲン検診)
レントゲンで乳房を撮影します。触診や乳腺エコーで見つけられない超早期の乳がんを発見することが可能です。超早期の乳がんとは非浸潤がんと呼ばれ、最近とくに増加傾向です。

視触診単独による乳がん検診では死亡率減少効果は期待できないので、1年に1回はマンモグラフィーと次のステップの乳腺エコーを受けられることをお勧めします。

ステップ4 乳腺エコー
マンモグラフィーに加えて乳腺エコーを追加することによって、総合的に乳がんの診断をおこなうことができます。皮膚にゼリーを塗って超音波を当てることで画像を得ることができる検査です。被爆の心配はまったくありません。

身体の中の腫瘍に対して、実際のエコー画像を観察しながら、針で組織や細胞を採取(乳房の針生検)により、良悪性の診断が可能です。

ステップ5 乳房造影MRI検査
手術前には、必須の検査となりつつあります。ほとんどの乳房の病気は、ステップ3「マンモグラフィー」やステップ4「乳腺エコー」で特定することができます。しかし、乳腺エコーでも病変が特定できず、針生検も不可能な場合、さらに画像検査と組織の病理結果が一致しない場合にこの検査をおこないます。

MRIだけでしか発見できない「多発乳がん」というタイプのがんもあります。

乳がんでおこなう主な治療法について

乳がんの治療には、大きくわけて「局所療法」と「全身療法」があります。

局所療法は、手術①や放射線治療②。全身療法は、薬物療法③(抗がん剤治療やホルモン療法)です。

2つの手術の方法

現在、基本的には乳房温存術が早期乳がんの標準治療とも言えます。わたしたち乳腺外科医は、できるだけ小さな傷で、確実に病気を摘出できるように緻密な計画をたてて手術に臨みます。

1)温存手術
乳房温存手術を行ったあとは、約1か月の放射線治療が必要となります。乳房を部分的に切除して病気を取り除きます。温存手術ができない場合は、がんを取り残す可能性がある場合です。

●メリット

・美容面ですぐれており、身体的・精神的満足度が高い。

・20年生存率では、胸筋温存乳房切除術とほぼ同等の成績です。

●デメリット

・残存乳房内の再発率を低下させるため、術後に5~6週間の放射線治療をおこないます。これにより皮膚がやけどしてしまい、乳房の皮膚が硬くなる可能性があります。

・残存乳房内に、20年以内に5~15パーセントの確率でがんが再発する可能性があり、その場合は乳房の再切除が必要となります。

2)乳房切除術
1980年代中頃までは、乳がんの手術方法として一般的でした。乳腺内に存在するがん細胞は、判明しているものを可能なかぎり完全切除します。

●メリット

再発率を下げることができます。

●デメリット

身体的・精神的・美容的な満足度が低い。

3)リンパ節郭清術
以前は、ほぼすべての乳がんの患者に対しておこなっていた手術法で、転移したがん細胞を残らず切除することを目的でリンパ節を摘出します。リンパ節をすべて摘出することによるリンパ浮腫などの合併症を防ぐために、センチネルリンパ節生検(乳がんが最初に転移する可能性のあるリンパ節のみを切除して調べる方法)もあります。

●メリット

転移や再発率を下げることができます。

●デメリット

腋窩リンパ節郭清は、リンパ管が途絶えることによって、腕からのリンパ流がうまく流れずリンパ浮腫がおこる可能性があります。

放射線治療

照射は通常、週5回(月~金)、25回、5週間前後です。主に、以下の5つの目的がありますが、(1)が大部分を占めています。

1. 外科手術のあと、再発を予防する目的のため(術後照射)。
2. 進行した乳がんで、手術が困難な場合は、抗がん剤と組み合わせておこなう(化学放射線療法)。
3. 高齢者や合併症などのために、手術や抗がん剤による化学療法ができない場合。
4. 乳房切除後、局所再発やリンパ節への転移、骨への転移あった場合。
5. 疼痛を伴う骨転移などに、痛みをとりのぞく目的のため。

●メリット
・比較的短い時間で外来治療ができる(治療にかかる時間は数分ていど)
・局所の再発率の低下が期待できる。
・転移した腫瘍の縮小や疼痛が和らぐ。
・QOL(生活の質)の向上が期待できる。

●副作用
・放射線の当たった皮膚の範囲が赤くなることがありますが、多くは一過性で治療終了後1~2か月でほとんど元の状態に戻ります。

・全身の倦怠感(日常生活はほとんど変わりなくすごすことができます)

薬物療法

「抗がん剤は毒だ。医者の金儲けのために患者は利用されている」といった話がまことしやかに語られています。抗がん剤を使用中は、一時的に免疫力は落ちますが、治療後は体力は徐々に回復するので、けっしておそれるものではありません。

治療の目的は、術前化学療法、術後化学療法、遠隔転移に転移があるとき、または転移がなくても再発する可能性が高いとき、再発してしまったときの治療法としておこないます。また、手術ができるがんに対して薬物療法を行い、できるだけ小さくしてから手術にのぞむ場合もあります。

抗がん剤治療・ホルモン療法によるpCR(病理学的完全奏効:顕微鏡検査でがん細胞が完全に消失していること)が増加すれば、手術の必要性が徐々に低下してきます。

錠剤やカプセルなどの「のみ薬」と、「点滴や注射などで血管(静脈)に直接抗がん剤を注入する方法」があります。薬物療法には、以下の3つの種類があります。

1.化学療法:化学物質によってがんの増殖を抑え、がん細胞を破壊する治療。
2.分子標的治療:分子レベルでがん細胞だけを標的にした薬を用いて行う治療。
3.ホルモン療法:エストロゲンをエサにして増殖するがん細胞を薬で死滅させます。術前に用いる場合は一般的に6カ月、術前術後の合計で5年間ほど継続します。

●メリット
・転移があっても、がん細胞の増殖を抑えて攻撃できる。
・入院せず外来での治療もできる。
 
●副作用
薬物療法は、正常な細胞も攻撃することになるので、薬物有害反応(いわゆる副作用)が生じることがあります。血液細胞が減ったり、口の中や胃腸の粘膜の再生が起こりにくくなったり、髪の毛や爪が伸びなくなったり、風邪をひきやすくなったり、貧血、吐き気、口内炎、脱毛など。女性ならば、将来的に妊娠・出産を希望するときは、まえもって担当医に相談しておくことが大切です。

しかし、近年では副作用に対する治療(支持療法ともいわれています)が、かなり進歩してきています。担当医に「副作用の症状を軽減させるための治療はありますか?」と相談してみましょう。

乳がんについてのデータ

手術後ケア(定期検診の頻度)

3年まで 3か月ごと
5年まで 半年ごと
10年まで1年ごと
※わたしは、年に1回のマンモグラフィーを推奨しています。

再発早期発見のために

CTや骨シンチや腫瘍マーカー測定などは、欧米のガイドラインや日本の乳がん診療ガイドラインでは推奨はされていません。欧米では、医療費高騰を防ぐためにこのように術後の定期検査を控える方向にありますが、再発を防ぐためにも主治医にぜひ相談してみましょう。

乳がん術後に悩まされている方が多いリンパ浮腫について

乳がん術後2~3年で起きることが多く、10年経過してもおきる方もいます。リンパ浮腫は、早期に適切に対応することによって重症化を防ぐことができ、またある程度まで改善させることができるので、あきらめないでください。

治療には4つあります。「スキンケア」「医療徒手リンパドレナージ療法」「圧迫療法」「圧迫下での運動療法」です。

■日本人の乳がん発症率  20人に1人

■乳がんで死亡する女性  年間約1万人弱

■術後の5年の再発率
2期で15パーセント。3期で30~50パーセント。

■10年後の生存率
1期(しこり2センチ以下) 89.1パーセント
2期(しこり2~5センチ) 78パーセント

■乳房再建
人工乳房を使用するやり方と、身体の他の部分から皮膚・脂肪・筋肉の一部を移植するやり方と、この2つを併用する方法の3つがあります。手術と同時におこなう「1期的再建手術」と手術が終了し一定期間が経過してから再建手術をおこなう「2期的再建」があります。