末期がんの緩和ケア ご家族のための「在宅緩和ケア」「自宅での医療」の知識【神奈川県川崎市幸区の在宅緩和ケアクリニック】

「私の家系はがんにならない」ってホント?

よく、私の家系はがんにならないから大丈夫、とおっしゃる方がいます。

まずがんって何かな?ということですが、悪い細胞が、細胞分裂を異常な増殖を繰り返していくことによって、体を蝕んでいくということです。

原因としては、遺伝的な要因もありますが、ほとんどが環境的な要因です。どういう食事をしてきたか、どういう空気を吸ってきたか、そういうことでがんというのは発生していきます。

たとえば乳がんに関して言えば、遺伝が原因のがんというのは5%くらいで、あとは後天的な遺伝子の変化です。後から何らかの理由で遺伝子に傷が入って、がんが発生するということです。がんは遺伝する病気ではなくて、それぞれの方に発生した遺伝子の傷が原因で起きる、遺伝子の病気、遺伝子病ということになります。

ただ、遺伝するものもあります。遺伝性腫瘍症候群というものがあって、若くしてがんにかかる方がいます。家系内にも何回もがんにかかる方がいる。あとは家系内にある特定のがんが発生して起きてしまう、こういうのが遺伝性症候群といいます。

そのなかで遺伝性乳がん、卵巣がんに関して言いますと、日本人の乳がん発症リスクというのは、6%といわれています。これは16~17人に一人が乳がんになるといわれています。乳がん発症年齢のピーク、これは40~50代の女性です。

では仮に、お母さんが乳がんの場合に娘さんはどうなるかというと、危険率が二倍になります。お母さんと妹が発症した場合、お姉さんはどうなるかというと、約四倍の危険率になります。その遺伝子は何かというと、BRCA1、BRCA2という遺伝子だということが判明していますが、これが大体80%くらいを占めています。

遺伝性の乳がんの特徴としては、若いうち、20代とかで発症してきます。また更に両側の乳がんになる可能性が35%になります。但し、遺伝性乳がんが必ず発症するかというと、平均すると約80%の人が発症するので、全員が起きるわけではない。また卵巣がんの発症頻度は大体40~60%くらいということになっています。

この対策というのはどうしたらいいのかというと、海外では卵巣を取ってしまうとか、予防的に乳房をとり、乳房再建も同時にしてしまう。そういうような治療も行われていますが、日本では検診をしていくということが一番大事なのではないかと思います。

いろんな乳がんのうわさがあります。これに皆さんが惑わされてしまいます。先ほども言いましたが、5%は遺伝子が関連していますが、それ以外は何でがんが起きたのか分からない、食べ物が悪いのかも分からない、生活スタイルがいけなかったのかということも分からないということです。

乳がんは基本的には痛みは無いですけれども、なかには痛みを訴えて外来に来る方もいらっしゃいますので、痛くないから大丈夫とはあまり思わないほうがいいのです。極まれにですが、痛みが原因で受診される方もいらっしゃいますので、なにか痛みがあるときにも相談に来て欲しいなと思います。

あとは、おばあちゃんだから大丈夫よね、と皆さん外来でよくおっしゃいますが、40~50歳にピークがあって、その後85歳くらいまである一定の比率で乳がんが発生していますので、高齢でも乳がんになるということは覚えておかないといけません。

マンモグラフィは痛いといううわさがありますが、これはある程度は本当です。じゃあ、どうすればいいのか。よく乳腺外科の先生たちがたとえるのは、雪原ですね、雪が広がっている中にゴルフボールを一個投げて、その一個を見つけられるか、という話をたとえるのですが、でも私たちはその一個を見つけなければいけないのです。そういうのがマンモグラフィの特徴で、薄くすればするほど、雪の真っ白が灰色になってきて、灰色の中から白いのを見つける。ということが可能になってくるので、嬉しい痛みだなと思っていただきたいです。

乳がん死亡率がマンモグラフィによって、約15~20%減少するという研究の結果が出ています。検診というのは時々痛みを伴うということなのです。私自身も痛みを伴った検診を受けて、私も頑張っているのですよ、というような写真を時々ブログに載せて、皆さんにエールを送っています。少しでもそれをきっかけに、じゃあ私も頑張ろうと思ってくれたらいいな、と思います。